審判書があれば登記できる、とは限らない話

遺産分割の調停や審判が成立すると、「これで相続の手続きは終わった」と感じる方も少なくありません。しかし不動産がある場合、審判書の内容によっては、そのままでは登記ができないことがあります。今回は、実際のご相談をもとに、審判書と不動産登記の間にある「思わぬ落とし穴」についてお話しします。

審判書があれば、すぐ登記できる?

遺産分割調停が不成立になると、家庭裁判所が審判(調停に代わる審判)を行います。審判書には、誰がどの財産を取得するかが記載されていますので、「これを持って司法書士に行けば名義変更できる」というイメージを持たれる方が多いようです。

たしかに、審判書は登記原因証明情報として使えます。遺産分割協議書を改めて作成しなくてよい分、むしろ手続きはシンプルなはずです。ところが実際には、審判書の文言の書かれ方によって、登記の組み立て方が大きく変わることがあります。

審判書の「括弧書き」が登記の手順を変えた

以前担当したケースで、こんなことがありました。審判書の主文には、ある不動産について「Aが2分の1を取得する」と書かれていました。ただしその横に、小さな括弧書きで「(Bが相続した2分の1の持分をAが相続する。)」と補足されていたのです。

この括弧書きが意味するのは、Aが直接その不動産の2分の1を取得したわけではなく、一度Bが相続した持分を、さらにAが相続したという経緯です。つまり登記の上では、まずB名義の持分を登記し、次にそのB持分をAへ移転する、という2段階の申請が必要になります。

「直接A名義にできないか」と法務局に事前照会しましたが、回答は「一旦Bを経由する必要がある」というものでした。ただ、この2件はいずれも審判書1本で申請できる(Bに関する別途の遺産分割協議書は不要)との回答も得られたため、連件申請でまとめて処理することができました。

📌 ポイント

審判書の主文に中間相続人の名前が括弧書きで登場している場合、登記の組み立てが変わることがあります。審判書を受け取ったら、早めに司法書士に確認するのがおすすめです。

審判書に「対象外の財産」が混在していた

同じケースで、もう一つ問題がありました。審判書には複数の不動産が遺産目録として添付されていたのですが、登記情報を確認してみると、被相続人名義の不動産とは別人名義の不動産が混在していたのです。

審判書の主文には「遺産目録記載の不動産を○○の遺産であることを確認する」という条項もありました。しかし法務局の見解は明確で、「登記名義が別人になっている不動産は、審判の対象となっていない財産として扱われるため、この審判書では登記できない」というものでした。

結果として、その別人名義の不動産については、別途、相続人間で遺産分割協議書を作成して対応することになりました。審判書があっても、すべての不動産を一括で処理できたわけではなかったのです。

⚠ 注意点

「確認する」という審判書の文言は、権利変動(名義変更)を生じさせるものではありません。登記名義が実態と異なる不動産については、審判書だけで登記申請をすることはできず、別途手続きが必要になるケースがあります。

調停・審判の前に、一度司法書士に確認を

今回のような問題が起きやすいのは、調停や審判の段階では「登記のことまで意識が回りにくい」という事情があるからだと思います。弁護士に依頼している場合でも、審判書の文言が登記に与える影響まで細かく確認されていないことがあります。また、裁判所も同様に、登記のことまで深く考えずに調停成立や審判をしていることがあります。

本人申立で調停をされている場合はなおさらです。調停の場では「誰が何を取得するか」に集中しがちで、その後の登記申請のことは後回しになりやすいのです。

不動産がある相続で調停や審判を予定している場合は、成立・確定する前に一度、司法書士に相談しておくことをおすすめします。調停調書・審判書の主文の書き方について事前に確認しておくだけで、その後の手続きがずっとスムーズになることがあります。

調停成立後に「実はこの不動産、名義変更できません」となってから対処するのは、当事者の方にとって大きな負担です。早めのご相談が、結果的に時間もコストも節約することにつながります。

調停調書・審判書を受け取ったら、まず司法書士へ

登記申請前に調停調書・審判書の内容を確認。主文の書き方によっては申請の組み立てが変わります。

調停・審判の前に相談するのがベスト

不動産がある場合は、成立前に司法書士へ一言確認するだけで、その後の手続きが格段にスムーズになります。

遺産目録の内容と登記情報は必ず照合を

調停調書・審判書の遺産目録に載っていても、登記名義によってはその書類だけでは名義変更できないことがあります。

まずは、話してみるだけでも大丈夫です。

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