新しい「所有不動産記録証明制度」思ったより万能ではない話

令和8年(2026年)2月2日から、「所有不動産記録証明制度」がスタートしました。亡くなった方が全国にどんな不動産を持っていたかを、まとめて証明書として取得できるという制度で、相続登記の準備にとても役立ちそうな仕組みです。ただ、実際の検索の仕組みを見てみると、「これさえ取れば全部わかる」というものではなさそうです。今回は、この新しい制度を司法書士の視点で整理してみます。

所有不動産記録証明制度とは

これまで不動産の登記簿は、土地や建物ごとに別々に作られていました。そのため「この人が日本全国でどんな不動産を持っているか」を一括で調べる仕組みは存在せず、相続が発生したときに、把握しきれない不動産がそのまま登記未了で放置されてしまうケースが少なくありませんでした。

所有不動産記録証明制度は、この問題に対応するために作られた制度です。所有権の登記名義人(本人またはその相続人)が法務局に請求すると、登記官がシステムで検索し、その人が所有者として記録されている不動産を全国規模でリスト化した証明書を発行してくれます。

請求はお近くの法務局(全国どこでも可能)で、書面またはオンラインで行えます。手数料は検索条件1件・証明書1通あたり1,600円(書面請求の場合)です。2024年4月に始まった相続登記の義務化と合わせて、相続人の負担を軽減するための新しいインフラ、という位置づけです。

検索の仕組みは、思った以上に「広い」

便利そうに見えるこの制度ですが、実際の検索ルールを確認すると、ちょっと意外な仕様になっています。法務省の説明によると、システムは次のいずれかの条件に当てはまる人を抽出します。

ひとつは「氏名(または名称)が前方一致し、かつ住所が市区町村まで一致している」場合。もうひとつは「氏名(または名称)が前方一致し、かつ住所の末尾5文字が一致している」場合です。このどちらかに当てはまれば、検索結果の抽出対象になります。

たとえば「防府市」に住む「田中一郎」さんを検索条件にすると、防府市内に住んでいる(または住んでいた)田中一郎さんが他にもいる場合、その方々の不動産情報も技術的には抽出対象に入り得ることになります。法務省自身も、検索条件が一致する「同名異人」の不動産が抽出される場合があることを認めています。

📌 ポイント

検索の仕組み自体は、氏名の前方一致+住所の大まかな一致という、かなり広めの設計になっています。同姓同名が多い名前の場合、検索結果に「自分(または被相続人)以外の情報」が混在する可能性もあるということです。

ただし、これはあくまで「システムが検索対象として抽出する範囲」の話です。法務省の説明では、この抽出結果の中から「請求書に記載された検索条件と合致するもの」を選定して証明書に記載する、という2段階の仕組みになっています。そのため、実際に手元に届く証明書は、請求書に書いた住所・氏名の内容に絞り込まれたものになる可能性が高いと考えられます。同名異人の情報がそのまま証明書に大量に載ってくる、というわけではなさそうです。

一方で、「漏れ」のリスクも残る

検索の網は広いはずなのに、肝心の不動産が証明書に載ってこない、ということも起こり得ます。原因は「過去の住所・氏名」です。

被相続人が引っ越しをしていたり、結婚等で氏名が変わっていたりした場合、不動産の登記簿上の住所・氏名が古いままになっていることがあります。この場合、現在の住所・氏名だけを検索条件にしても、登記簿上の情報と一致せず、その不動産は証明書に反映されない可能性があります。

過去の住所・氏名も検索条件に加えることは可能ですが、その場合は除籍謄本や除かれた戸籍の附票など、変遷を証明する書類を別途準備する必要があります。つまり、「とりあえず請求してみる」だけでは、本来知りたかった不動産が証明書に出てこないということが起こり得るのです。

⚠ 注意点

証明書は、請求書に記載された検索条件のみで検索されます。検索条件が登記簿上の氏名・住所と一致しない場合、該当する不動産があっても「該当不動産なし」という証明になってしまいます。この場合も手数料は発生し、返却もされません。

司法書士の視点:名寄帳との使い分け

実務上、不動産の名寄せに使われる手段としては、以前から「名寄帳」(各市区町村が作成している、固定資産税のための所有者別不動産一覧)があります。今回の所有不動産記録証明制度は、この名寄帳とどう違うのでしょうか。

💡 司法書士の視点

所有不動産記録証明制度が特に役立つのは、「被相続人が、自宅のある市区町村以外にも不動産を持っていたかもしれない」というケースです。これまでは、心当たりのある市区町村ごとに名寄帳を取得して、ひとつひとつ確認するしかありませんでした。今回の制度なら、全国を対象に一度で確認できるのが大きなメリットです。

一方で、被相続人が住んでいた市区町村内の不動産については、その自治体の名寄帳の方が、登記簿上の表記揺れなどを踏まえて把握できている場合が多く、むしろ確実なことがあります。

つまり、「全国を広く確認する」のがこの新制度、「地元を確実に確認する」のが名寄帳、という役割分担で考えるのが実務的かなと思います。最終的には、戸籍をたどって住所・氏名の変遷を整理したうえで、両方を組み合わせて確認するのが、もっとも確実な方法です。

まとめ

所有不動産記録証明制度は、「亡くなった方が他にどんな不動産を持っていたか分からない」という場合に、新しい選択肢を与えてくれる制度です。ただ、検索の仕組みには「広すぎて同名異人が混在する」「過去の住所・氏名が一致しないと漏れる」という両方の側面があり、これ単体で相続不動産をすべて把握できるとは限りません。

不動産がどこにあるか分からない相続では、まずは戸籍をたどって被相続人の住所・氏名の変遷を整理することが、結局のところ一番の近道になります。所有不動産記録証明制度は、その調査を補強する一つの手段として、上手に活用していくのがよさそうです。

まずは、話してみるだけでも大丈夫です。

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